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デンジャラスナイト in ティンプー
夕食の恨みをクラブで晴らすのだ!
ワンデュポダンでクラブに行きそびれたので、不良警察官ミンジュとは「ティンプーでは遊びに行こう」と話していた。実のところ、今日の午後やることがなくなってからは主な話題はソレであった。合言葉は「デンジャラスナイト!」。コバヤシ夫妻も誘ってある。
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ムッとした食事を早々に終えて、10時までは休憩。ヲサム君は熟睡する。少し疲れているようだが、こうやってスッと眠れるところが若さだなあ。
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10時にミンジュがやってきた。綿シャツにキャップまで被ってすっかり気分はアメリカンである。コバヤシ夫妻も乗り込む。「あれ、カルマは?」「ヒー イズ ウォーキング」「ふーん。歩いてくるのか」
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ティンプーには二つのクラブがあるというが、今日行くはずなのは「All Star」。さきほどの「S.N.S.」と同じビルにある。オオヒラさんも行ったというからエトメトのコースに含まれているのだろう。「スペシャルな行事のように見えて実はきっちりお決まりのコースか」という思いも多少はあるが、まあそんなことはどうでもいい。こっちにはデンジャラスな不良ドライバー、ミンジュがついている。なにか面白いことが起こるだろう。
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ミンジュの様子がおかしい。
何かを企んでいるのか??
ところが、カローラはその店のあたりを過ぎて、どんどん町外れに向かっていく。「?」ひょっとするとホントにエトメトのコースを外れた店か、どこかのパーティに連れていこうとしているのか。ちょっと期待しはじめる。
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着いたところは小さな食堂の前。あたりは暗い。中に入るとテーブルが二つ。スヌーピーのビニールトレーが並べてある。他に客はいない。私たちだけで店の半分くらいは占領しそうな小さな店だ。
「ここは?」
「ここでカルマを待つ」
あ、そう。
ミンジュは表に出てしまった。
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10時30分頃になって「カルマは寝てしまった」。ふーん、そうか。真面目な山男ガイド、カルマなら無理もない。じゃ僕らだけで行こうか。「どこに?」「パーティに」「パーティはここだ」「えぇ?」
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ハメられたか?これがデンジャラスってことか?夕食の件で怒っていたヲサム君の怒りパワーが炸裂する気配がした。「ともかくオールスターに行こう」。
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ミンジュの目が泳いでいる。こいつ、なにかを隠しているな。なんだろう?
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その食堂の若い主人にミンジュが謝っている。主人はたいした反応もなく「あ、いいよ、いいよ」というくらいの軽い返事。この店では何も飲んでいないし、この回り道でなにか経済的にはめられたというわけではない。
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ミンジュの様子が変だ。しょげていると同時に不機嫌だ。運転も荒っぽい。
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ああ、ホントにクラブだ。
しかし、こんな服どこで買ったんだろう。
オールスターの前まで行って、クルマを降りてもミンジュの足取りは重かった。これまでの「デンジャラスナイト!」というノリは全然ない。眉を八字にして、「ほんとに行くのかよぉ…」という感じで後ろからトボトボ歩いてくる。
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さきほどと同じビルに入ったのだが、階段の景色はまるで違った。黒と銀を身にまとった若者が階段にたむろしている。盛り上がる時間まで外にいるのか、仲間を待っているのか。「クラブの風景だねえ」。ここだけで見れば日本人の着ているスタイルとあまり変わらない。ブータンの町にこんなものを売っている服屋はなかったから、密かな流通があるのだろう。
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入場料は男200ニュルタム、女50ニュルタム。酒は別。Tiger Beerが50ニュルタムだ。
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中はまったくクラブ。ときどき音は途切れるし、選曲はタイムワープする。けれど、目の前にあるものはクラブの光景以外のものではない。
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皆懸命に黒や光物の素材を着ている。女性はノースリーブ、タンクトップ、ミニスカート。へそ出しパンツ見せの娘までいたのには笑ってしまった。日本のビデオでも見て研究しているのだろう。
ただし踊りは全然ダメ。リズムに合わせて踊る、ということが理解できていない様子だ。知っている曲が流れると嬉々として身体が動き始めるから、メロディで踊っているのだろう。腰がうねっている子はほとんどいない。リフレインだけでなく一曲まるごと皆で歌っていたりするから、「踊るカラオケ」のようでもある。英語の能力は高い。
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ただしブータンが美男美女の国であることは良くわかった。もちろんそうでない人もいるけれども、この開発レベルの国としては顔立ちは非常にモダンである。どちらかといえばお醤油顔。中国系のつるんとした目の細い顔にちょっとアーリア民族を混ぜた面持ちだ。この国が開放路線を取ることがあったらナイトライフは相当の産業になることだろう。
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おかしいのはミンジュで、入るときはさんざん渋ったあげく「12時までだから」と説得されて入ったはずなのに、12時になったら「あと1時間いいかな、、」と言い出すほど。がんがん踊ってゴキゲンだ。ときどき女の子をナンパに行くのだがふられている。
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「どうしてミンジュは最初嫌がったんだろう」「年齢層が低くて、この店じゃモテナイと思ったんじゃないですか?」
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年齢は10代後半から20代くらいか。不良を気取る一群もいて、煙草を吸いながらテーブルに腰掛け、ソファに足を乗せている。それが精一杯イキがってるポーズだと思うとおかしい。ブータン人は普通煙草を吸わないので、これだけで充分顰蹙ものなのだろう。
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コバヤシ夫人はブータン人に見えるらしく、さかんにナンパされていた。私に声をかけてきたのは男ばかりだった。なんなんだ。
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ホモらしいのもいたが、それ以外に一見不良の男の子にも声をかけられた。「ダンスうまいですね」「ありがとう。よく来るの?」「週に一度」「木曜ごとに?」「そうです」。今日がその木曜なのであった。
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ヲサム君は踊りながら隣の子に煙草をもらっている。全員、なんか一体感があるのである。
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12時半頃店を出る。「ミンジュ、じゃホテルまで乗せてってくれる?」「いまか?」。おいおい。
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打って変わってミンジュの運転はえらいハイになり、高速ターンはするわ猛スピードは出すわでホテルに着く。ちなみに来たときは工事中だった「出会い橋」はいつのまにか通行可能になっていた。
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