ヲサム旅日記

6日目 その4






サラタビ第9章:第6日目 その4。ブータン、ティンプー

夜10時ちょっと前。ウトウトから目が覚める。そろそろ準備だ。フジウラさんも準備体制を整え始めた。せっかくだからコバヤシ夫妻も声をかける。二つ返事でOK。やはり興味があるらしい。昨晩、オオヒラさんもご自分のガイドにクラブへ連れていってもらったらしいのだが、スタート時間がまだだったらしく、ガランとしていたらしい。そういえば、ワンデュ・ホダンのクラブもガランとしてたっけ。いささか不安になってきた…・。

玄関の前でカルマ、ミンジュを皆で待っていると、少し遅れてやってきた。ミンジュが洋服で登場。昼間はゴだったのが今はジーンズにシャツ。キャップなんぞもかぶっている。結構似合っているが、昼との服装のギャップに思わず笑ってしまった。ところで、カルマが見当たらない。どうしたの?と聞くと、待ち合わせ場所に来なかったのでとりあえず店に行くとの事。なんか様子が変だ。っていうか、よくわからないぞ、ヤツの英語。いやいやワタクシの英語力か……。まっ、とりあえず行く事に。不安である。

ついたところは、町のハズレの小さなレストラン。っていうか食堂。晩飯にこういうところ連れてきて欲しかった…。どうもここでカルマを待つという。ミンジュは我々をおいてちょっとカルマを見にいくと言う。薄明かりの店の中、我々は待たされる。はしゃぐ我々、気持ちは募る。ブータンのクラブってどんなんだろ。

ってな事を話しながら待つこと数10分。ミンジュが帰ってきた。どうしたと聞くと?カルマは来ないみたいと言う。へっ、そうなんだって返すとミンジュはスマシタ顔でじゃあ「何のむ?」と聞いてくる。ハテ?彼のこの返し、何か違和感。どういうことかと聞くと、ここで飲むんだと言う。ハテ?クラブへ行くんじゃないの?慌てて、オイオイクラブは?と聞くと、今夜は飲むんじゃないのか?飲むからここに来たんだ、と。

ワタシ、切れました。

「カチーン」と切れましたは。自分の英語力のなさが一番の要因だったのだろうがそんな事は棚に上げ、ミンジュに詰め寄った。「話しが違う、クラブに連れてけ、絶対連れてけ」と。ミンジュは「ここじゃないのか、ここで酒を飲もうよ」と答えるが、いやいやこっちの気持ちは収まらない。かなり激しく詰め寄ったせいか、ミンジュは「ホントに行くの?」といった感じで渋々我々を車に乗せた。

どうもそのあたりからミンジュがおどおどしだした。その車の中ではワタクシかなりカンカンだった。その時の様子をフジウラさんは言う、「ヲサム君かなり熱くなってたね」と。そりゃそうである、晩飯で期待を大きくはずされ、最後の夜もこんな風にはずされれば、ワタクシの"ブータン"への思い入れというか気持ちがマッサカサマに落ちていく。だから熱くなった気がする、今となってそう思う。



着いた所は先ほど晩御飯を食べた同じビル。SNSの隣の「ALL Stars」へ。ミンジュは入る前にも聞いてきた「ホント入るのか?」と。あったりめぇーだ、ここまで来て帰れるかってんだ。渋い顔をするミンジュを無理やり引っ張り中に入ると、入り口には若者がたむろしている。

おっ、何かクラブっぽい。しかも、皆カッコは若者そのものである。あの昼間のゴやキラを着た厳粛なイメージのブータン人が、目の前ではオープンなスタイルでいる。何か溜まっているものを爆発させているようでもある。写真におさめなかったのは心残りで、この場でお見せできないのが非常に残念だが、若者の格好は全く日本の若者と同じなのである。ジーンズ、Tシャツ、ローライズ、厚底(もういないか日本には…)リングetc…。昼間との衣服のギャップがすごい。これは今までと違う体験ができそうだ。

ミンジュがおどおどしていたのは、ここにいる連中は若過ぎるからかな。ちょっと嫌なんだろう。入場料は200Nu(ガイドブックには300Nuと書いてあった。)。さっきまで怒っていた自分はスッカリどこかへ行ってしまい、ワクワクしながらいよいよホールに入る。別にクラブが好きなわけではなく、"ブータン"のクラブだから興味があるのである。

暗がりの中、音楽がガンガン鳴っているが、踊っている人間は比較的少ない。ちなみに音楽は、ラップ、ロック、テクノ、バラードなんでもあり。日本で少し前にはやっていた洋楽がかわるがわるかかっている感じである。この辺はまだまだなのか。ホールで踊っている人を見てみると、皆静かにおとなしく踊っている。どこかぎこちない。しっかし、遠目から見ると見た目はほとんど日本人と同じである。そんな中、我々も一緒になって、汗だくになって踊った。

結局、いちばん盛り上がったのはミンジュ。

初めはあまり乗り気でなかったミンジュのテンションも徐々に上がっていき、しばらくするとひたすら笑顔で踊っている。少し休憩をとっていると、こちらに寄ってきてもっと踊ろうと誘ってくる。いやいや、先程の乗り気でなかった態度がうそのようである。すっかりはまっている。踊っている若者と少し話しをすると、10代(19歳)だった。タバコをもらったのだが、かなり軟派なヤツだった。毎週、木曜(だったと記憶する)に集まって踊りに来るそうである。この辺は日本と同じだと感じた。もっともっとブータンの若い人達の生活スタイルを見てみたいと思った。

そうこうしているうちに12時になったのでそろそろ帰りましょうか、と話をしていると、な、なんとミンジュが「頼む、もう30分いないか?」とお願いしてきた。あれだけ渋っていたミンジュが結局、一番楽しんで盛り上がっていた。しょうがないので延長した。いや、ホント楽しそうに踊っている。我々はちょっと疲れた。なぜなら汗だくになってアホのように踊ったから、しかも皆年甲斐もなく…

しかし、結果的にミンジュに詰め寄ってよかったと思う。クラブなぞ大した場所ではないかもしれないが、行きたい所に行けないというのは非常にストレスが溜まるものだ。限られた中で行きたい所に行って、そしてまた、文化の一端を垣間見る事ができ、とても有意義な夜であった。

ミンジュは後ろ髪をひかれながらも我々を車に乗せ、ホテルへと送ってくれた。すっかりテンションがあがり、警官のくせに飲酒運転、その運転もフラフラだった。我々もケタケタ、キャーキャー、テンションは気持ちよーくあがっていた。そういえば、帰り際、ビルの1階では、酔っ払った女の子が男の子によしかかり、抱えられていた。まるで、コンパで酔いつぶれた子を介抱している図、まさに日本の居酒屋前の風景であった、春先あたりの。今宵、ブータンのもう一つの姿を見ることができた。とっても小さな事だろうけど。



ホテル前でミンジュと別れ、コバヤシ夫妻とも別れた。部屋に帰ったらどっと疲れが出た(怒り疲れと踊り疲れ)がシャワーを浴びて横になり、しばらく考えた。ブータンは外国人観光客を制限し、文化の崩壊を防いでいるといっても、情報は入ってくるものであり、若者の感性はそんな中で着実に磨かれている。なんだかんだ言っても、間違いなく、この国は変化するだろうと思った。良い方向か悪い方向かはわからない。ただ、秘境ではなくなる気がする(既に秘境ではないのかもしれないが…)。昼間にも思ったことだが、文化は進化している。この流れは止まらないだろうなぁ、どうなるんだろう?

そんな事を考えながらいつのまにか寝ていた。良い経験ができた。怒りがいがあった。英語ももっと勉強しなきゃ…・。





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