ふじうら旅日記
3日目
その7
そして今回のサラタビ最後の夜。
楽しい時間はどんどんどんどこ経つのであった。
部屋で飲み直し。
ヲサム君は明日午後は用事があるそうで朝一番の便で 帰ってしまう。私たちは午後の便だ。どちらにしてもこれがこの旅の最後の夜 となる。酒はまだまだあるので(いっぱい持ってきたから)最後の酒盛りだ。
この文章の中で、今日一日だけでも何度か「前にもこんなことがあった」と書いていて、その事情を知らない方にはわかりにくいだろうなあと心苦しく思うのだけど、ヲサム君とは何度も旅しているしコバヤシ夫妻とも前回のブータン旅行で一緒だったので、行動パターンというか「慣習化」が起こるのである。
例えば風呂に入る順番なんてのもそうで、前回ブータンの農家で
ドツォ(石焼風呂)に入ったとき
には初めてのことだったので誰が最初に入るか一瞬顔を見合わせたのだが、ブータンの農家の方が「ここでは年長者が先に入ります」と言うと、それがこのグループでの決め事みたいになってしまった。
というわけでまったく自然なこととして私が最初になった。残りの人は部屋で酒盛りしていて、順番に風呂へ行く。満天望のお風呂は新しい檜風呂で、ヒノキ湯船の良い香りがした。
風呂に行くとき、部屋着を探してみた。温泉旅館なら浴衣があるところだが、さすがに凝っていて洋風の寝巻きがあった。
「おしゃれですね」
「そうだ、パジャマパーティをしよう」
各自風呂からあがるときにこの部屋着を着てくれば自然にパジャマパーティになるという寸法である。良いアイデアだ。
というわけで私が最初に風呂に行って、そのパジャマを着て帰ると ヲサム君が「似合わね〜!」と言い出す。「なんでだよー」。その後マユミ さんが着てくると「女性が着るとかわいいけどフジウラさんが着るとヘン」 などとほざいている。
「次はヲサム君が着るんだよ」
「えー、いやですよ」
「なにを言っているんだ、ここの集会に来た以上は着るのが決まりだ」
と、ヲサム君を釈服しはじめる。
みんな同じ格好するなんて怪し気な宗教団体みたいだ。というノリに感化 されて、宗教団体ごっこをはじめた。
「教祖様お言葉を」
「プライドが貴方を不幸にするならば、プライドを捨 てなさい」
「ははー」
証拠写真を取るとイニシエーションの真っ最中のようだ。満天望の奥様 もまさかこの部屋着がこういうふうに使われるとは想像されていないだろう。
そこへコバヤシさんも部屋着を着て帰ってきた。
「なんなのこの人たち」
ヲサム君は終日抵抗し、ついに宗教面での一致を見ることはなかった。うーむ。 それも私の法力が足りなかったせいか。(冗談ですからねー、念のために蛇足 しておきますけど)
「星が見えるよ」「あ、ほんとだ」と部屋を暗くして夜空を見上げる。コバヤシ さんたちの部屋のほうが窓が開けているので、そちらへも行く。「南十字星は見 えないかな」。雨空続きの旅だったが、ようやく星空を見ることができた。 「満天星を望む」まではいかないにしても満足な空だ。ほんとうに充実した旅 であった。
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