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夕食の時刻になった。アシタバやカンパチなど八丈の産物を活かしながら、
おしゃれな料理だった。クロサカ夫人はとても上品でどこかのお宅へお呼
ばれしていただいているような気がしてくる。「このアシタバは
採ってくるのですか」「道に生えているものは固いので、専門の農家の方から
仕入れているのです」
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昼間の笹の子とはまたちょっと違う「焼き笹の子」を出してくれた。
「こっちのほうが苦味が少ないでしょう。生えているところを教えてもらって
採ってきたんだけど薮蚊に刺されて」とクロサカさんが苦笑いしている。
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島焼酎を飲んでごきげんになっているところへ「はい、島寿司です」と大きな
皿に二杯も島寿司が出てきた。
島寿司の特徴は、魚がヅケであること、ワサビ
でなく辛子を使うことだ。もともと弁当だったということで、わりあい大きめに
握ってある。
これもまたクロサカさんが握ってくれたもので、みんな「旨い旨い」
とどんどん食べてしまう。
かなりの量があったのだが、ほとんど食べて「あとは
夜食にしましょう」ということになった。
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というのは、そろそろ暗くなってきたのでホタルを見に出かけるのである。
あんまり酔って足元が危ないのはイカンので島酒も(それなりに)押さえて呑
んでいる。
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さきほど散歩した民俗資料館の前を過ぎて役所のあるほうへ行き、クルマは右
に曲がった。途中地元の人に道を教えてもらいながら目的の「ホタルのいる川」
へ向かう。「ここからは歩いて行きましょう」
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クルマを停めて灯りのない道を行く。まだかすかに夕陽の名残りが残っていて闇
にはなりきっていない。黄昏(たそがれ)とは「誰そ彼」という意味らしいが、
そこに誰かがいることはわかるが誰だかわからない、その程度の暗
さになっていた。
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「あ」「見える?」「うん、あそこに」
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「これはヘイケボタルですね」とクロサカさんが説明してくれる。ホタルを見
るのは何年ぶりだろう。目が慣れてくると意外にたくさんのホタルが草蔭で瞬
いている。ときおり光の強いホタルが飛ぶ。「あれはゲンジボタルです」。
なるほどねえ。子供のときはわからなかったけど、貴族的なヘイケと荒武者
のようなゲンジなんだなあ。
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この川はホタルが棲息できるように設計したのだそうで、自然と共生するという
八丈島村の方針らしい。同じ東京でも無計画な開発もあれば、こういう計らいを
実行しているところもある。
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「蛍の光、窓の雪」とつい思い出してしまう。ワンパターンな発想だとは思
うんだけど。「ホタルはちょっと無理だけど、光るキノコの中にはそれで本が読
めるほどのものもあるんですよ」「そんなに明るいんですか」「ええ、
なかにはそういうのもあります」。光るキノコ、今回は見れなかったけど興味深
いものだ。
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ホタルを堪能して満天望に帰る。朝昼晩とよく遊んだ。
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