ふじうら旅日記

3日目 その6






夕食の時刻になった。アシタバやカンパチなど八丈の産物を活かしながら、 おしゃれな料理だった。クロサカ夫人はとても上品でどこかのお宅へお呼 ばれしていただいているような気がしてくる。「このアシタバは 採ってくるのですか」「道に生えているものは固いので、専門の農家の方から 仕入れているのです」

昼間の笹の子とはまたちょっと違う「焼き笹の子」を出してくれた。 「こっちのほうが苦味が少ないでしょう。生えているところを教えてもらって 採ってきたんだけど薮蚊に刺されて」とクロサカさんが苦笑いしている。

島焼酎を飲んでごきげんになっているところへ「はい、島寿司です」と大きな 皿に二杯も島寿司が出てきた。
島寿司の特徴は、魚がヅケであること、ワサビ でなく辛子を使うことだ。もともと弁当だったということで、わりあい大きめに 握ってある。

これもまたクロサカさんが握ってくれたもので、みんな「旨い旨い」 とどんどん食べてしまう。 かなりの量があったのだが、ほとんど食べて「あとは 夜食にしましょう」ということになった。
島寿司
というのは、そろそろ暗くなってきたのでホタルを見に出かけるのである。 あんまり酔って足元が危ないのはイカンので島酒も(それなりに)押さえて呑 んでいる。

さきほど散歩した民俗資料館の前を過ぎて役所のあるほうへ行き、クルマは右 に曲がった。途中地元の人に道を教えてもらいながら目的の「ホタルのいる川」 へ向かう。「ここからは歩いて行きましょう」

クルマを停めて灯りのない道を行く。まだかすかに夕陽の名残りが残っていて闇 にはなりきっていない。黄昏(たそがれ)とは「誰そ彼」という意味らしいが、 そこに誰かがいることはわかるが誰だかわからない、その程度の暗 さになっていた。

「あ」「見える?」「うん、あそこに」

「これはヘイケボタルですね」とクロサカさんが説明してくれる。ホタルを見 るのは何年ぶりだろう。目が慣れてくると意外にたくさんのホタルが草蔭で瞬 いている。ときおり光の強いホタルが飛ぶ。「あれはゲンジボタルです」。 なるほどねえ。子供のときはわからなかったけど、貴族的なヘイケと荒武者 のようなゲンジなんだなあ。

この川はホタルが棲息できるように設計したのだそうで、自然と共生するという 八丈島村の方針らしい。同じ東京でも無計画な開発もあれば、こういう計らいを 実行しているところもある。

「蛍の光、窓の雪」とつい思い出してしまう。ワンパターンな発想だとは思 うんだけど。「ホタルはちょっと無理だけど、光るキノコの中にはそれで本が読 めるほどのものもあるんですよ」「そんなに明るいんですか」「ええ、 なかにはそういうのもあります」。光るキノコ、今回は見れなかったけど興味深 いものだ。

ホタルを堪能して満天望に帰る。朝昼晩とよく遊んだ。





表紙へ
表紙へ
サラタビへ
サラタビへ
目次へ
目次へ
同じ日のヲサムへ
ヲサムへ
GO PREVIOUS
前へ
GO NEXT
次へ