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そのうちにヲサム君がロビーにやってきた。やはり大きい荷物を持っている。
お土産も兼ねてスナック菓子を持ってきてくれたのだが、カ○○ー社員なのに袋は
明○製○のだ。すかさず写真を撮る。
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コバヤシ夫妻もほどなく現れて、これで準備完了。もうみんなニコニコ
している。会社帰りなのでいくらか気分に残照が残っているのだが、会って
バカ笑いしているうちにそれもたちまち消えていく。
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先日買ったチケットは乗船券ではなかったらしい。ちゃんとした乗船券と引き換
えたら半券に住所を書くところがあった。これが乗船名簿になるのだという。
もし船が沈むようなことがあったら、これがニュースになるわけだ。「年齢
ごまかしたらまずいかな」。マユミさん(コバヤシ夫人)も、もうすっかりハイ
になって冗談モードに入っている。
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10時10分頃、乗船のアナウンスがあって、船へ。夜の港に浮かぶ船に乗り込
むのはなかなか良い気分だ。なんだかずいぶん遠くまで旅に出る気になる。2
等船室は船底だが、思ったより居心地が良い。もっと空気が悪く防錆ペンキの匂
いがたちこめているのを覚悟していたのだが、これならオンの字だ。しかも2
等和室は一人一畳ほどのコマが床に書いてあって、チケットの数字のところが
自分の場所である。急いで乗って場所取りをする気遣いもないのであった。
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平日のせいかがらがらに空いているので、広々と寝られる。それでも念
のために隣で横になっていた人に缶ビールを渡して
「うるさいかもしれないですから」と挨拶しておく。なにごとも問題になる前に
手を打っておくことが大切なんである。
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船が動きだしたので、デッキに出る。
「いいねえ」
東京港ウォーターフロントの灯りの中を船は進んで行く。
お台場の観覧車を眺め、レインボウブリッジの下をくぐり、海ボタルを遠くに見て、案外の快速で東京湾の外へ向かう。
巨神兵のようなクレーンやモニュメントの灯りも遠ざかるにつれ海面の高さへ近づいていく。
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「仕事から離れていくなあ」「幸せ」。船の旅立ちは、ゆったりと日常から離脱
させてくれるようで、平日の夜の出発にふさわしい。遠くに見えるものはもう
東京タワーばかりだ。
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風が強く、冷たい飛沫が舞う。じゃんけんで誰かが2等船室にウィスキーを取
りに行こうと提案し、マユミさんが負けた。「普通言い出しっぺが負
けるのに」。彼女が帰るまでに皆が船のあちこちに隠れる。もう、子供
のようになっている。
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就寝時刻が近付いたのでいったん船室に戻り、酒肴を持って食堂へ行く。ここも
貸し切り状態。これなら1等などに乗るよりよほど居心地が良い。
軽くボトルをあけて「まぁ今日はこんなところで」と眠りにつく。
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