ふじうら旅日記

1日目 その1






残業からそのまま旅へ。
会社を出るときがなかなかタイヘンだ。

1日目 5月16日 木曜日

船は午後10時30分竹芝桟橋発だ。私の会社は田町なので家に帰るよりそのまま 竹芝に行ったほうがずっと近い。だから少し残業をして時間を調節し、会社から 直接サラタビに出ることにした。

昼間は背広なので旅行鞄に着替えを一つ余分に入れなければならない。そのうえ 船中で飲む酒や紙コップも持っていくので、前回のブータン旅よりよほど大きな 荷物になってしまった。「なんのこっちゃ」。近場の旅は油断があるので、 どうもパッキングが甘くなってしまう。

しかも小雨である。雨具はかさばるので白いパーカーを鞄に入れた。たぶんこの パーカーにとって、この春最後のおつとめになるだろう。

午後8時半頃に会社を出ればよい。その頃は人も少ないだろうと 思っていたのだが、この日はなぜか大勢が残業している。しかたがないので会議室 でこそこそと旅姿に着替えた。さて、この背広をロッカーに置 きにいかなければならない。誰かに見つかったら「なんでアロハとジーパンなの?」この格好の説明 をしなければならず面倒なので、あたりを見回してさささとロッカーへ忍び 寄り、脱いだ背広の入った紙バッグを中に置き去る。

ちゃんと有休を取って、しかも終業後に行くのに、このコソコソした態度は 何だ。サラリーマンの休暇はデリケートなもんなのである。

それでも新橋駅からゆりかもめに乗るころはすっかり旅気分になっていた。 左手にイルミネーションで飾られた帆柱が見えてくる。あれがマストのある 広場、竹芝の乗船ロビーはその広場の前にある。

この前、切符の手配をしに来たときは会社から歩いてきたので、このあたりの 地理はよく把握している。無駄なく一直線にロビーに向かう。

あまりにも無駄がないためか、少し早く着き過ぎてしまった。出船1時間半ほど前 である。飛行機ならもう乗客は集まっているのだが船はのんびりしたもので人 はあまりいない。みんな10時ころ来ればいいと思っているのか。これまでの 経験で「安い席では早めに乗船して良い場所を確保する」と 思っているものだからこののんびりした情景に少し拍子抜けになる。

暇だからあたりを見回しているうちに変な掲示を見つけた。「天候により 御蔵島八丈島港に着岸できないことがあります」。退屈しのぎに係員に話し掛ける。 「着岸できないときはどうなるんですか」 「東京に戻ります」 「小舟に乗り換えて上陸なんてのは」 「ありません」「そういうことって年に何度もあるんですか」 「ありますよ」

係員があっちへ歩いていってしまったので 次に用意していた「その場合、料金はどうなるんですか」という、いちばん大事 な問いを聞きそびれてしまった。まあ、これはただの脅しか言い訳だろう。

気分はもう島




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