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ガスが晴れないのでいったん撮影を中断してホテルに帰る。ヲサム君はドンさんの紹介でモデルをやっているというジョグジャカルタの女子大生に会いに行く。 クルマの中でその話をしていて「ジョグ大生」という駄洒落に大笑いする。大体クルマのなかでは馬鹿話ばかりである。ドンさんが盛り上がったら「ドンさん騒ぎ」とか言ってがははは笑う。 |
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ダイトウさん、私、ヤマモリさんはおやじ年齢なので、ときどき古い話になる。ダイトウ夫人とヲサム君は若いから、そういうときは「知らないだろう」とダイトウさんの標的になる。ダイトウさんはガキ大将みたいなところがあって、相手が弱みを見せるとどんどん突っ込むのである。そのわりに守りには弱い。 |
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その日もホテルに帰る車のなかで昔の雑誌の話になった。 「昔の少年雑誌って南方の話多かったよねー」 「そうそう、潜水夫が貝に脚をはさまれて上がれなくなる絵とかよくあった」 「ヤシガニって知ってる?」 「あー、あったあった」 「なにそれ?」 「蟹が木に登って椰子の実を採るんでしょ」 「そうそう」 「えー?猿じゃないの」 「猿じゃないよ。なんかヤドカリみたいなカニ」 「それ想像の動物でしょ」 「違うよ。実在するんだよー」 |
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「どういう格好してるの?」 「こんな感じかなー」 そのとき私が描いたのは左のような絵である。(復元図) 「現地の人がこういうカニを木に登らせて椰子の実を採らせるんだ」 「そんなマンガみたいなカニいるのかなあ。想像の生き物じゃないの」 |
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ダイトウさんと私はヤシガニ実在説を主張するのだが、他の3人は想像動物説を取るのであった。なにしろ根拠が「昔の少年雑誌に載っていた挿し絵」なのでたいした根拠はない。守りに弱いダイトウ=フジウラ組は攻撃の糸口を見つけられず、とりあえずその日はこれだけで終わった。 しかしヤシガニはこの撮影旅行の重要なテーマになるのである。 |
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