YogYakarta
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地元の農家に入り、地元の市場を見る。
ドンさんはなんて愛想がいいのだろう。

朝景の撮影もすんで、ボロブドゥールの遠景を撮りに近くの村へ行く。あらかじめ撮影場所の候補は選んであるらしい。これもドンさんの働きである。

焼豆腐売り 途中に市場があった。「陽があがるまで、ここをちょっと覗いていこう」

どうやら朝市らしい。農家の人がこの市場まで作物を持って来て売るのだ。ダイトウさんは被写体にすごく接近していく。さすがプロだ。売っているものは、ほとんど野菜と果物だが、建物の中に入ると肉や魚もある。見ていると日本の焼豆腐にそっくりなものもあった。豆腐文化というのはここにもあるのか。

カメラを向けると嫌がる人も多い。まあ、それはそうだ。突然知らない人がカメラを向けたら嫌だろう。だいたいその人が毎日普通にやっていることを勝手に「珍しがる」ということ自体、失礼なことと言えよう。とは思いながら写真を撮っている。旅行とは身勝手なものである。

香辛料の路商 ダイトウさんの話では
「アジアの市場の写真というのは案外需要が多いんだ」そうな。
教科書とか、図鑑とか、ときには食品のパンフとか。

民族衣装を着た女性が道に座って鮮やかな色合いのスパイスを売っている姿は、まあ確かに絵になる。

トラックに乗って村へ帰る 看板を見るとこの市場は「ボロブドゥール市場」というらしい。ランプータン、パパイヤ、マンゴーを買って、一同撮影車の脇に立って食べる。

しばらくするとみんな売れ残った作物をまとめて、それぞれのトラックに乗り込んでしまった。朝市はもう終わりだ。その前を制服を着た女学生が通りすぎていく。登校の時刻である。


再び撮影車に乗りこんで、遠景の撮影に向かう。最初に案内された竹林は、あまりかんばしくない。視界をふさぐ竹の枝をいくつか切ってもらったりするのだが、撮影場所がなかなか決まらない。水分が多いせいで霧がスカッと抜けなくて、遺跡がきれいに見えないのである。

竹林の山を登っては降りる。みんないくぶん息が切れている。重い機材を抱えて登るから無理もない。ドンさんはすこぶる元気で身が軽い。この老人、どうやら超人的な体力を持っているようだ。


道路に面した畑のわきに、撮影できそうなところがあった。広がった畑の向こうに山があり、その中腹の森にボロブドゥールが小さく浮かんでいる。ダイトウさんは手早くセッティングをすませて霧が晴れるのを待っている。私たちはとくに仕事もないので畑を見たりしてぶらぶらしている。「この畑はなんだろう」「里芋みたいだな」。のんびりしたものだ。

道路をときどき人が通る。通勤時刻なのだろう。制服を着た女性を後ろに乗せたオートバイが町の方向に走って行く。ときどき若い女性が自転車で通ると、ドンさんはニコニコ笑ってなにか話しかける。女性もなんか答えて通り過ぎる。

「なんて言ったの?」
「こんにちは、どこへ行くの? と言ったのです」
それだけ?そのわりに女性はニコニコしているなあ。

ドンさんは本当に愛想のいい人だ。小柄なのだが眼がくりくりとしていて、肩をすくめながら全身で「ノープロブレム。問題ありません」というと、本当にこの人にまかせておけばなんの心配もないような気がする。

ボロバドゥールを見上げる 遠景の撮影はなかなか進まない。ガスが晴れないのだ。昨日の雨が水蒸気になって山のあちこちに立ち昇っている。


道路の背後は高台になっていて小さな農家があった。「見せてもらいますか?」とドンさんが言う。もちろんです。ぜひ見せてください。みんなで泥の坂道を上がってその農家へ行く。

小さな平屋である。入口に小屋があって牛と山羊が半分づつ使っている。子供を背負った若いお母さんが洗濯物を干していた。軽く会釈して台所を見せてもらう。土間である。低い位置に釜戸が二つ。上に焚き木をつるしてある。風呂に焚き口がない。水風呂だ。入口のドアは竹を四角く編んで紐で結んだものだ。

居住するところに比べて台所が貧しい。低くて暗い。これは女性の地位を反映しているのだろうか。

外に出ると少し庭がある。それでも裕福なほうの農家に感じられる。さっきのお母さんと、たぶんお婆さんにあたるのだろう。ふたりの女性がニコニコしていた。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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