Bangkok
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深夜の国境駅を通過し、タイに入る。
この列車に乗っているタイ家族は皆、金持ちに見える。

隣の席に座っていたオヤジは係員で、あとから別の客がやってきた。

長距離列車のせいか、けっこう豪華な内装だ。「アジアの旅」から連想される粗末な内装とはまるで違う。さすが東のオリエントエクスプレスを名乗るだけのことはある。

二組の親子 まわりの席には子供連れが多い。オムツが取れないくらいの、同じ年くらいの子供を連れた母親が二人いる。

一人は小錦のような母と連れの娘、それに幼児。もうひとりは最近の日本人のようなスリムな母と、男の子、それに幼児。ともに3人、まったく同じような家族構成なのだが姿はまるで違う。

どうやら痩せているほうが金持ちで、肝ったま母さんのほうは貧乏らしい。アジアも「金持ちのほうがスリム」の時代に入ったのだろうか。

車内でいろんなものを売りに来るが、国境を越えるまでは酒は出てこない。マレーシア側で焼メシ3RM(107円)を買って食べる。

タイに入ってからは、缶ビール5RM(178円)瓶ビール10RM(357円)朝食10RM(357円)。 リンギットしか持っていないので、少しボラれている感じもする。

この列車は寝台車である。日が暮れてから係員が回ってきて、座席の間の板を立ててテーブルを作った。それから一度引き返し、今度は夕食のメニューを持ってくる。

こうなっていたのか。しかし焼メシを食べたばかりなので「私は何もいらない」と答える。係員は怪訝な顔をして「お前はムスリムか?」と聞いてきた。この、「飯を食わなければイスラム教徒」という発想が自然に出てくるところがおかしい。断食中とでも思ったのだろう。

なにも注文しないので「ちぇ、無駄手間だったな」と、ぶすっとした顔をしてテーブルを片づけて行ってしまった。


夜半に国境の駅バダンブサルに着いた。

全員、手荷物だけを持ってぞろぞろ列車を降りる。夜中のことでもあるし、強制収容所に行くといった風情である。電車の後方から降りて建物に入り、前方から出てまた同じ列車に乗り込む。その間の駅舎が入国管理なのだ。

無事入管を過ぎると免税店があった。酒が欲しかったが、1リットルの大きなボトルばかりだ。マーテルが103RM(3,677円)で売っていた。


マレー鉄道の駅員
客はタイ人が多く、そしてそのタイ人たちはおおむね金持ちのようだ。

黒い肌の男が夜寝る前にきちんと歯磨きをしているのを見てちょっと違和感を感じ、そして違和感を感じている自分に驚く。「不潔な人々」という偏見が自分のなかにある。

きのうのパイロットたちが帰りのタクシーのなかで「インターネット、CNN、サイバーカフェ」と言ったときもなんか不思議な感じだった。そういう話題があって当然なのであるが、マレー語のなかにそういう単語が混じってくると響きが他の部分とは違うように聞こえる。

日本語でそういう話をしているのも、外国人にとっては妙なものなのかもしれない。


今回ほとんど旅の資料を持ってきていないのだが、タイについてだけ雑誌の切り抜きなどが若干ある。日本でいちばん手に入りやすいアジアの資料はタイとバリだろう。列車のなかでそれを見る。

情報があるとそれに囚われるのがわかる。「損をしたくない。効率的にうまく全部見たい」という欲が出てくる。

この列車にはトイレが二つある。洋式と和(?)式。そういえば日本でもそうだ。どちらにもシャワーホースが付いている。水で洗うための新兵器だ。田舎のトイレでは水桶と手柄杓(ひしゃく)が備えてあることが多い。トイレットペーパーもついていたが、夜中になくなった。

近席の子供が寝るとき母親に「グッドナイト、トゥモロー」と言うのが聞こえた。このタイ人金持ち家族はマルチリンガルなのか。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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