マレーシア北部の3月は日本の秋のようだった。紅葉はないが稲穂は金色で、光は夕陽の朱を帯びている。
国境を越えたタイの南部はジャングルである。道路の土の色だけが妙に白い。 |
奇岩が多い。湿地が続いている。ときおり岩窟が遠くに見える。 |
夜が明けてきた。この席は進行方向に向かって右。東側の席だ。椰子に似たひょろ長い木が水田の間に生えている。鷺のような白鳥が群れ飛ぶ。その向こうにほんやりと朝日が浮かんでくる。 |
朝食の頃、タイ軍人のような二人連れが検札に来る。年配のそっくりかえった男が番号を読むともうひとりの若い男がそれを書き移す。若いほうはいかにもペーペーである。 私の番号はたまたま3333だったので、同じ音が続いて響きがおもしろかった。 |
席にずっといてもつまらないので通路を歩く。旅慣れた感じの老人がいたので「どのくらい旅を続けているのだ」と聞く。 「なに、シンガポールから来ただけさ」 商用利用客も多いのだろう。ちょっと豪華な新幹線といったところである。 |
今度は左のサンダルが壊れている。皮のサンダルはひとつ破れだすとあちこちがダメになる。もう糸が弱っているのだろう。右はシンガポールで直したが、左はどの町で修理することになるのだろう。 |
だんだん都会に近づいてきた。今回の旅でいままでに来たことのある町はこれから行くバンコクだけだ。 前に来たときはチャオプラヤ河沿いの高級ホテルだったし、ファランポーン駅周辺は「危険だから行くな」という警告を旅行代理店から受けた。今回はその駅に、自分が電車に乗っていくのである。 |
バンコク市街に入って、列車の方向が変った。 基本的に南から北への旅なのだが、ファランポーン駅は反対方向を向いているので、最後は北から南への進行となる。手元に方位磁石を置いておくと、ゆっくり針が回転していく。 いよいよマレー鉄道の終点、バンコクだ。 |
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