ふじうら旅日記

4日目 その4






B.B.キングの店に行ったら白人客用のイージーR&Bで
「濃さが足りん!」という気分になる。

メンフィスの町は南北に長い。ミシシッピー側の東岸に、川沿いに発達した地形だ。川の近くはおそらく湿地のようだが、200メートルほど離れたところから急な坂になり、登りきったところが川に平行する高台、馬の背になっている。

ここがメンフィスのメインストリートだ。トロリーが走っており、古くからあるアメリカの町に共通した雰囲気がある。南部の町ではあるが、煉瓦作りの建物などに多少東部の匂いもする街角だ。

メインストリートのところがいちばん高く、川とは逆側はゆるやかにえんえんと下っていき、郊外につながる。メインストリートに平行して、2ndストリート、3rdストリートが走っている。数が増えるほど「場末」になる感じだ。

泊っているホテルとオートゾーンパークがあるのは「ユニオンアヴェニューと3rdストリートの角」だ。アヴァニューはストリートとは直角の通りで、その理屈から言うとビールストリートは「ビールアヴェニュー」でなければならないんだが、ここは「ストリート」で呼ばれている。たぶん古い道筋がそうなっていたんだろう。

ニューオリンズがバーボンストリートで、メンフィスがビールストリートだから、どちらも酒の名前だとなんとなく思っている人も多いかもしれないが、それは間違いである。だいいちアメリカでは「ビール」と発音しないから、「ビアーストリート」になってしまう。

ビールストリートのスペルはBeer StreetではなくてBeale Streetだ。この「Beale」という単語は辞書に載っていない。フランス系の固有名詞らしいから、誰かにちなんだものなのだろう。

ちなみにB.B.キングのB.B.というのは、Beale Street Boyのことだそうな。
昼間のビール・ストリート
ミシシッピー川にある港町はおおむね「一時ものすごく繁栄した」時期があるようだ。少数の白人入植者が多くの黒人奴隷を使って富を独占した、というのは事実だが、白人入植者だってそれなりに苦労はしたらしい。南部の植物がのたうつように生えている湿地に、自分たちの家族だけでやってきて、住めるようにしたわけだ。

河運で南部の作物を北部のセントルイスまで運ぶ。大動脈の要所要所で地域の作物を集める集積地として、メンフィスやヘレナのような町が発達したのだろう。「俺にもいい時代があったんだよ」と爺さんがつぶやいているようなたたずまいが、このあたりの町にはあった。

しかし大きな町のわりには意外に本屋が見つからない。ようやく見つけた店もキリスト教関係の宗教書専門店で、そこで「地図はどこで買える?」と聞いて、WalGreenの場所を教えてもらう。

ウォルグリーンはチェーン店のスーパーマーケットで、メインストリートの、わりあいホテルに近いにあった。ここで地図を買う。瀬戸物でできたエルヴィス像が売ってある。メンフィスの定番みやげものだ。

CDウォークマンの電池が切れたので電池を買いたい。お店の人に聞く。「電池はどこです?」「こっちよ。サイズは?」え、単3って英語でなんと言うのだ。「シングルスリー...」「?...」。単3はAAというのでありました。

買い物を済ませて外に出ると雨が降ってきたので、また戻って傘を買った。

雨ではあるが、地図が手に入ったので一安心。まだ明るいが、一杯飲みにいくことにした。

ホテルの近くに気になった店がある。「カフェ61」という名の店で、表にルート61のネオンを出している。
カフェ61
カフェ61のお姐ちゃん
ここのスタッフが着ているルート61Tシャツが格好いいので、ヲサム君が
「それ買えますか?」
「売っているわよ。でもサイズがLしかないわ」
「うーん、Lはでかいなあ」

ヲサム君が優柔不断になっているので「じゃ私が買うよ」と、横合いから買ってしまった。
「ほら、Lなら私にちょうどいい」
ヲサム君おおいに悔しがるの巻であった。こんなことばかりしている。でもかっこいいTシャツだよん。


いったんホテルに帰り、一休みする。今晩はB.B.キングの店に行くつもりだ。「遅くなると混むから早めに行きましょうよ」とヲサム君が言う。ビールストリートには観光客がたくさん歩いていたからそうかもしれないなあ。いいよ、と早めに行くことにする。

深く考えもせず6時30分くらいにビールストリートにいったら、なるほどB.B.キングの店の前はかなり混んでいる。わりと年輩の人ばかりだ。

やっぱり早めに来ないといい席がないのかなあとその列の後ろにつき、ステージの近くの席に座った。
B.B.キングブルースクラブ
まだ外は明るい
ところがいつまで経っても演奏が始まらない。さっき店の前にいた連中は団体らしく、食事を済ませるとまた出ていってしまった。
この店のグラスは古い蜂蜜瓶を転用したものである。これは昔のジュークジョイントのスタイルなのかもしれない。そのグラスで酒を飲みながら待っているうちに眠くなってしまった。
B.B.キングの壁画
B.B.キング・オールスターズ
演奏が始まったのは午後9時。B.B.キングのバックバンドメンバーによる「B.B.キング・オールスターズ」と「メンフィスのブルースの女王」ルビー・ウィルソンだ。

最初のステージはブルース中心だったのだが、セカンドステージは脈絡なくヒット曲をつなぐナツメロR&Bベストヒットのような選曲になった。客は白人、それも年齢の高い客が多く、そういう人たちでも知っている曲ばかりをつないでいる。
高齢白人客はよろこんで踊りまくっているのだが、「ブルースを聞こう」と気合を入れている身としてはちょっと物足りない。

B.B.キングオールスターズの連中も、うまいことはうまいのだが、ちょっとスタジオミュージシャンみたいな感じで、ジャズっぽかったりベースがスラップしてたりして、「どブルース」からは程遠い。

ルビー・ウィルソンの看板
期待していたものがブルースだったので、「ちょっと違ったなあ」という感じが離れなかった。最初から「メンフィスR&Bを聞くんだ」と思って行けば楽しめたかもしれない。

夜のビールストリート
なんとなく、うーん、これがメンフィスのB.B.キングの店かあ、と思いながら帰路についた。

以前シカゴでバディガイの「レジェンド」という店に行ったときはもっと濃いブルースだったなあ。
長い時間いたわりに料金は安く、チップも含めて3人で90ドル。

田舎っぽい雰囲気の客も多かった。近郊や近くの州から、安く遊べる場所としてメンフィスに来ている人も多いのだろう。
ブルースのネオンでいっぱい




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