ファンの多い歌です。日本歌謡史屈指のバラードと言っていいと思います。発表は1940年8月。映画「支那の夜」の主題歌です。唄ったのは、渡辺はま子。彼女の代表曲でもあります。
「湖に浮かべたボートの上で、服部良一がソプラノサックスで作曲した」という逸話を読んだ記憶がありますが、真偽は定かではありません。あまりにもぴったりした情景なので偽談のようにも感じられます。しかしその話を聞いたせいか、この曲のキーはBbが似合うように思い込んでしまいました。Bbはソプラノサックスのキーです。
多くの人がカバーしています。最近では平原綾香がこの歌に新しい命を吹き込むような素晴らしい録音を残しました。憂歌団の内田勘太郎が演奏していましたし、ティンパンアレイをバックに雪村いづみが吹き込み、上々颱風もライブでやっていました。チャゲ&飛鳥の飛鳥涼がソロアルバムで唄ったものもあります。この曲と「上を向いて歩こう( SUKIYAKI )」は、みんな一度は演る曲のようです。
蘇州というのは現在の「江蘇州」。上海の西、浙江省(杭州)の北。南船北馬でいう「南」そのものの地形でクリークが巡らされ船で移動するような地だそうです。私はまだ行ったことありませんが、写真で見る限り歌のとおりの情景です。
歌詞について、ちょっとした疑問があります。唄い出しの2行ですが、
君がみ胸に 抱かれてきくは
夢の船唄 恋の唄
と思っている人が多いと思います。
信用できる歌詞集では、ここが
君がみ胸に 抱かれてきくは
夢の船唄 鳥の唄
となっています。手持ちの資料でいうと、楽譜集「日本歌謡曲全集」では「こいのうた」になっていますが、「服部良一作品集」では「鳥の唄」になっています。
「服部良一作品集」のほうが信頼できそうですし、オリジナルが「鳥の唄」でそれを「恋の唄」にすることはあってもその逆はあまり起こらないでしょう。また、本人が「なぜ戀の唄になってゐるのだ」と憤慨したという記述も読んだ事があります。真偽のほどはわかりませんが。これは「鳥の唄」が正しいのだと私は思います。
それから、ふじうら.こむの読者の方にはあまり縁がないかもしれませんが、「蘇州夜曲」という題名の漫画があります。作者は森川久美。この人は昭和十年代を舞台にした作が多く、続編ともいうべき「南京路(ナンキン・ロード)に花吹雪」という作品もあります。
FGODが蘇州夜曲を取り上げるのは、2000年12月の「FGOD 20世紀を唄う」という企画がきっかけです。20世紀を代表する曲のひとつとしてステージにかけることにしました。
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