「ウッドチョッパーズボール」は昔々、1930年代のビッグバンド全盛期にウディハーマンのバンドでヒットした曲です。つまり第二次大戦前の曲です。ショービジネスのステージでは見世物的なギミックが効果をあげることがよくありますが、この曲もどちらかというとプレイヤーの技巧を見せ合う「ソロバトル」的なところがありました。
その雰囲気をいかしてエレクトリックギターに編曲したのが、高中正義です。といっても、彼がはじめてこの曲をギターで演奏したわけではありません。
高中がヒントを得たのはおそらくアルビン リーのバージョンからでしょう。Alvin LeeはTen Years Afterのギタリストとして68年のアルバム「undead」でこの曲を演奏しています。そのときは「at the Woodchopper's Ball」という名前で収録されました。
テンイヤーズアフターとこの曲の間には違和感があります。ブルース系ロックバンドのテンイヤーズアフターがどうして古いビッグバンドのこの曲を取り上げたのか。技巧的な曲がギタリスト魂を刺激したから?それもあるでしょうが、その間にもうひとつ仲介になるものがあるのではないかと思います。
エレクトリックギターの黎明期にはエレキギターのための曲などは少ないのでインストバンドはあちこちから題材を持ってきたものです。ベンチャーズを思い出してもらえばわかりやすいでしょう。映画音楽でもビートルズでも日本の歌謡曲でも、ジャンルを問わずどんな曲でも自分たちのスタイルで弾いてしまう。そういったバンドがビッグバンドの有名曲をギターで演奏するのは不思議ではありません。私は、アルビンリーはウディハーマンを聴いてこの曲をやろうと思ったのではなく、エレキバンドあるいは白人カントリーバンドでのこの曲を聴いて、自分も取り上げようと思ったのではないかと想像しています。
以下は私は実際には聴いたことがなくてインターネットで見つけたものなのですが、エレキバンドThe Virtuesはアルバム「Guitar in Orbit」で、またBill Black Comboは「The Untouchable Sound」でこの曲を取り上げています。カントリーバンドではピアノのFloyd CramerやBuddy Emmonsが、Woodchopper's Ballの録音を残しています。これらの演奏がビッグバンドとアルビンリーを結んでいるミッシングリンクなのではないかと思います。
曲名のボールは、ダンシングボール(舞踏場)です。ウッドチョッパー「木こり」は地名か愛称なんでしょう。元々は開拓の町だったのでそういう名前がついたホールがあって、そこで楽しく激しく踊りまくる。そういう感じでしょう。
キーはCで超高速なブルースです。姫野君のギターの妙技を、目をボールのようにしてお楽しみください。
|