One For My Baby
One For My Baby
(And One More For The Road)


ワン フォー マイ ベビー (アンド ワン モア フォー ザ ロード)
(Johnny Mercer/Harold Arlen)

地味だけど、とても粋な唄です。

設定は夜更けの閉店間際のバー。カウンターには男の客が一人。そして店を閉めて帰りたがっている様子のバーテンが一人。この客がなかなか腰をあげてくれずに、ぶつぶつとバーテンに話しかける。

それだけの唄です。そんなものが唄になるのだなあ。

曲もその感じをよくとらえていて、最初Ebのキーで使った旋律をそっくりそのまま次にはGのキーで繰り返して使います。「酔っ払いの繰り言」という感じ。メロディもダルで情けなくて、でもブルージィです。詞はジョニーマーサー、曲はハロルドアーレン。米国大衆音楽を代表する作家二人だけあって、このよくある情景に深い世界を与えています。

題名の(And One More For The Road)の意味がわかりにくいですが、慣用句に「One For The Road」という言い方があります。出発にあたって「この旅に乾杯」と言うときの決まり文句です。

ここでは酔っ払いがこの席を離れて家に帰ることを「さらば友よ、旅立ちの一杯を」と大袈裟に言っているのでしょう。まずはそういう意味だと思います。

「まずは」というのは、もう少し深いニュアンスが隠されているような気もするのでして。一番最後に「for that long long road」という文句がついています。これは、たかだか家に帰るにしては大仰すぎるように思うのです。この酔っ払いはもっと「長い旅」のことを考えているのかもしれないなあ。それはこの男がいま話していたことと関係あるのかもしれないなあ、と。

70年のロンドン公演でフランクシナトラがこの曲を唄った映像が残っています。シナトラは唄う前にMCで情景を描写します。「恋人と別れた男がいる。彼は絶望し、酒に逃避して誰とも話をしない。数日たって孤独からようやく復帰する気になる。男はバーを探し、バーテンダーひとりしかいない店を見つけ、会話をはじめる」。

つまり「彼女の旅路のために一杯。自分の孤独な長い旅のために一杯」ということなのでしょう。このときのシナトラはマイクに向かう前にまず酔っ払った姿になり、それから唄い始め、歌いながら煙草を吸います。歌詞が一人芝居の台本になったような舞台です。

この歌詞はうまいことに、話の内容については一切語っていません。「Well that's how it goes(まあそういうわけなんだ)」と、描写は話が始まる前から突然、終わったところに移ってしまいます。しかしけっこう重い話だったことは「This torch that I've found must be drowned or it soon might explode(俺が見つけたこの松明は、消しておかないとそのうち爆発しかねない)」と言ってることから感じられます。

ちなみにこの「torch」という単語。基本の意味は「たいまつ」ですが、動詞では「放火する」という意味もあるやや危険な響きの言葉です。さらに「torch song」トーチソングといえば失恋の悩みなどを歌う感傷的な唄のことです。ひとつひとつの単語の選び方に気が配られているように思います。

まあそういうふうにニュアンスのある言葉を並べながら「なんでもないことのような」「実はすごい深いことのような」感じを漂わせているあたりがこの曲の妙なところです。これにくらべるとニューミュージック系演歌によくある「人生は〜ですね」というような歌詞はコクが無いように思います。

歌詞中「true to your code」は「職務上の秘密は守らなければならない」という職業律で、医者や弁護士と同じくバーテンダーもそうだぜとちょっと洒落て言っているのですが、わかりにくいのか語呂を良くするためか「true to your gentleman's code」と唄っている例もあります。また「thanks for the cheer」(励ましてくれてありがとう)もちょっと大げさなためか「thanks for the beer」と即物的な歌詞になっている場合があります。作詞のJohnny Mercer自身この歌詞で録音しているので、出版された後で気が変わって直したのかもしれません。まあこういう語るようなバラードの歌詞が唄う人によって違うのはよくあることです。

初出は1943年の映画「青空に踊る(The Sky is the Limit)」。歌ったのはフレッドアステアです。曲の設定どおり酔っ払ってバーテンに向かって歌っています。

この曲の名唱はたくさんあります。まずは作者であるハロルドアーレン、ジョニーマーサーのご両人がそれぞれ歌ったものをあげなければなりません。それからもちろんフランクシナトラ。有名どころでは、トニーベネット、ビリーホリディ。ハリーベラフォンテ、マリーネディートリッヒもこの曲を歌っています。演奏ではウェスモンゴメリー、ジョーパス(写真)のギター版がブルージィです。個人的にはジャズブルースのチャールズブラウン、ロウルイズ、それからラベルネバトラーを推薦しておきます。 カバーアルバムは実に多いのでぜひ一度リストを見られることをおすすめします。下の「CD検索」の一番右にある「One For My Baby」をクリックしてみてください。

FGODの曲としてはバラードのほうです。夜中の、もう終わりかけのころにたらたらと演れたらと思います。




One For My Baby (And One More For The Road)

あの娘のために一杯
(そして旅路のためにもう一杯)

It's quarter to three
there's no one in the place except you and me
So set'em up, Joe
I've got a little story you ought to know
We're drinking, my friend
to the end of a brief episode
Make it one for my baby and one more for the road

3時15分前だ
店には君と俺しかいない
もう片付けてしまえよ
ちょっと話したいこともあるんだ
短いエピソードを語り終えるまで
一緒に飲もうじゃないか
作ってくれよ 俺のベイビーのために一杯
そして 腰をあげるためにもう一杯
I got the routine
so drop onother nickel in the machine
I'm feelin' so bad
I wish you'd make the music dreamy and sad
Could tell you a lot
but you've got to be true to your code
Make it one for my baby and one more for the road

いつもの習慣なんだよ
ジュークボックスに硬貨を落してくれ
ひどい気分だから
なにか哀しい唄にしてくれないか
話はいろいろあるんだが
でも秘密は守らないといけないぜ
作ってくれ あの娘のために一杯
そして 旅立つためにもう一杯
You'd never know it
but Buddy, I'm a kind of poet
and I've gotta lot of things to say
And when I'm gloomy
you simply gotta listen to me
until it's talked away

君は知らないだろうが
俺は一種の詩人でね
語ることはたくさんあるんだ
で、俺が憂鬱でいるときは
ただ聞き役でいてくれ
話が全部終わるまで
Well that's how it goes
and Joe, I know you're getting anxious to close
So, thanks for the cheer
I hope you didn't mind my bending your ear
This torch that I've found
must be drowned or it soon might explode
Make it one for my baby and one more for the road
That long long road

まあ そういう具合なんだ ところでジョー、
閉店の時間が気になるようだな
慰めてくれてありがとう
聞き役にさせて悪かったね
俺の松明は 早めに消しておかないと
爆発しそうだったんだ
さて 一杯作ってくれ 俺のベイビーのために
そしてもう一杯
これからの長い旅路のために


CD
Johnny Mercer
Harold Arlen
One For My Baby




One For My Baby

楽譜
Johnny Mercer Harold Arlen
One For My Baby



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