Yangon
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思い付きで大河を渡るフェリーに乗る。
対岸は土埃を立てて人を村落に運ぶトラックが集まる別世界だった。


しばらく休んでいるうち「川に行ってみよう」と思いついた。

ヤンゴンは大きな三角州の町で、ヤンゴン川という大きな川が流れているはずだ。 ヤンゴン川はエヤワデ川支流にあたるが、支流とはいえそうとうな大河でバンコックのチャ オプラヤ川同様、海運の拠点としてこの町の発展に大きな役割を果たしたという。 その川の姿を見てみたい。

川はすぐに見つかった。公園から歩いて10分くらいの、すぐ近いところにあった。 見渡すとフェリーの船着き場がある。そこまで行ってみた。

途中に変な小屋があっ て、小屋から川面へ木の樋(とい)が伸びている。 下半身だけ隠れる高さなので、 そこに人が立っているのが見える。「なんだこれは?」とのぞいてみたら便所だっ た。用を足したものが筒を伝って川に流れていく仕掛けだ。まるきり上方落語の「 有馬小便」である。

フェリーボート フェリーの運賃は3K(1.2円)。もう帰宅時刻なので乗客は多い。二階建ての船内 は満員だ。立っている客も多いが幸い船べりの木椅子にありついたのでそこに座る 。

船の中でものを食べている人もいるので案外長い航海なのかなとも思う。川幅は 広くまるで海のようで向こう岸はよく見えない。広くゆったりとした泥水で流速は遅く 流れているのかどうかよくわからない。

ほどなく出航した。動き出すと風が強い。風上に座っている中年の男がなにか葉っ ぱのようなものをくちゃくちゃ噛み、ときどき川に向かって唾をぺっぺっと吐く。 その唾液は真っ赤だ。しぶきが風に乗ってこっちに飛んでくるので首をすくめる。
「まあアジアだからいいんだけど」

そういえば先日のマッサージ屋のおやじの歯も赤かった。この中年男の歯茎も真っ 赤な汁に染まっているのだろう。

川中あたりで、かもめがたくさん集まってきた。乗客が持っているお菓子のかけら などを投げるとかもめはそれを空中でつかまえる。船を追いかけて、ほとんど手に 触れそうな近くをかもめが飛んでいく。


向こう岸の船着き場に着いて階段をあがってみると、風景がまるで違っていた。

見渡す限り荒涼とした土地が広がっている。建物といえば乗船券を売る事務所と小さ な売店の二つしかない。

船着き場の近くに多数のバス、ジープ、トラックが停まっている。トラックの荷台はいま船から降りた人で埋まっており、それが土煙をあげながら次々と発車していく。たぶんここで乗り換えてそれぞれの村まで帰るのだろう。


「マレー半島とは違う、、」

この光景には感じるものがあった。シドニーシェルダンの小節や映画に出てくる、アフリカや南アメリカの鉱山とか集落の風景に近い。

人もトラックも土埃も、なにもかもが乾いていた。ほんとうにここはもう東南アジアではないのだと実感する。


物は頭に乗せて運ぶ

しばらく経つとクルマは一台もいなくなった。

少年が水桶をふたつ下げた天秤棒を 肩にしてひょこひょこと出てきた。階段を降りて川の水を汲み、小さな売店に帰っ ていく。その後をついて店に入り、Tiger Beerを飲む。

280K(112円)なのだが、 1000K札を渡すと目の前で釣りを50K抜こうとする。計算できないと思っているのか 、外国人だからチップのつもりで勝手に取っているのか。わからないが当然すぐに 指摘して正しい額にさせる。わずかな金額ではあるけれど、なにしろこのフェリー の渡り賃が3Kなのだからこの国ではそれなりに使える額だろう。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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