Yangon
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街頭マッサージの夫婦に呼び止められ、
恐ろしい「爪切り」を体験する破目になる。


ごみごみした通りを歩いていると、ちょっとした空き地に椅子を置いた夫婦連れに呼び止められた。

頬の白い化粧 こちらを見て手招きをしてくる。

マッサージを受けないかというのである。ずっと歩いてきたし、ここで座って休むのもよいかと椅子に座る。夫婦二人がかりで肩や脚を揉む。 通りがかりの人も外国人がマッサージ屋に捕まったのを興味深そうに見ていく。

脚に傷があるのを見つけて夫のほうが「ここに傷があるな」と目顔で示した。うむとうなづくと、いいものがあると小瓶を取り出した。見ると濁った赤黄色の液体が少し入っている。赤チンが変色して黄色くなっているもののようだ。たしか黄色くなったマーキュロは毒だったんじゃないか。

それを傷口に塗ろうとするので、いやいいと手で制す。男はさほどこだわらずにそうかと瓶をそこに戻した。

男は次に手足の爪が伸びているのを見つけてそれを切ろうという。その間も妻はずっと私の肩につかまっている。そういえば爪をしばらく切っていない。「OK」と首を動かすと男はごく小さなナイフを取り出した。

男は私の指をつかみ、爪と指の間にナイフの先を下から垂直に入れ、爪の裏から縦に刃を爪に差し入れた。鋭利な刃が指先にそって動いていく。

爪切りナイフの図 ナイフは三日月型で、おそるべき切れ味。爪はしゅるしゅると切られていく。その間も妻は平気で肩を揉んでいる。もし動いたら爪の内側に怪我をしそうだ。

薬はさっきの赤チンしかないと思うと、身体をじっとしているしかない。

両手の爪が切られてようやくほっとしていたら、男はかがんで足の爪を切り始めた。こちらのほうがもっと恐い。なにしろ汚い足だし、向こう脛の傷が治るのがこんなに遅いのに足の爪の内側なんか怪我したらひどい目にあうに違いない。

私の足の爪はぶ厚い。普通の爪切りではとてもぱちんと切れない。それを、男のナイフは苦もなく切っていく。同じように爪の裏側にナイフを立てるように入れて、果物の皮を剥くように爪をナイフで切っていくのである。

ようやく爪切りが終わった。その間、正直恐かった。代金2000K(1000円)というのは、後で考えるとかなりボラれたなという感じだが、まだこの国に入ったばかりで、そのときはいくら払ったのか把握できない。それよりも解放された安堵感のほうが強かった。

しかしこの爪切りには大きな効果があった。普通の爪切りではとてもできないくらいの深爪にしてくれたおかげで足の爪にあった水虫もすっぱり切り捨てられたのである。その後もずっとサンダルを履いて足が蒸れることもなかったので、長い間あった爪の水虫がそれ以来治った。

東南アジアへ行って水虫が治癒するとは思わなかった。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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