Singapore
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<似非西洋>な街景を見ているうちに
だんだん不愉快になってきた。

ところが、シンガポールへの入国手続きはあっけないほど簡単だった。

飛行機代が払えれば、それでOK。金を持っていることがひとつの審査になっているような印象だ。船で入国できないのもそのためかもしれない。結局、用意してきた切符を使うことは一度なかった。

空港からホテルへ向かう道で、シンガポールの風景を見ながら私はなんだか意味もなく不機嫌になっていた。たしかに美しい、話に聞いていたとおり公園のような街だ。道路も整備されている。しかし。

しかし、これがアジアだろうか。数日前までバドゥイの村にいた私の目にはこの風景はとても奇異なものに映った。西欧の皮をかぶったアジア。表面にヨーロッパを貼り付けただけの見せ掛けの街に見えてならない。しかし。

東京だってそうではないか。ブルースを唄う日本人である自分はどうなのか。西洋の皮をかぶった黄色人種にすぎないのか。それとも西洋文化を呑み込んだ、消化力の高い自己なのか。どちらがどちらを浸食しているのかわからない。私もまた半端なアジアに違いない。


やたらと西洋的な街を眺めながら、西洋的アジア人の私はすこし憂鬱になっていた。その私を乗せてタクシーはハイウェイを走り抜け、ぐるぐる回りながら公園のような街の地面へ降りていく。なんだか無理に大回りさせているような道だ。目的地はフェニックスホテル。ジャカルタから予約してある。

珍しくホテルを予約したのは入国管理のときに書く住所が欲しかったからだが、もうひとつ、シンガポールで会いたい人があったのでホテルを指定してもらったからだ。その人とは東京で一緒に働いたことがある。


西洋のような風景
窓の外の緑は夕刻の気配になっている。ひさしぶりに仕事のことを考えたり、アジアと西洋のことを考えたりしているうちに、タクシーはフェニックスホテルに近づいた。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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