
クワズイモ
サトイモが大好きだ。といっても味ではなくて、あの葉や茎の姿が好きなのである。
サトイモの葉のある風景もいくつか覚えている。熱海の初島で夕立に遭ってサトイモの葉を傘にして宿まで帰ったこともあったし、有給放浪のボルブドゥールの遠景撮影で前の畑にサトイモの葉が揺れていたこともあった。
それで追分のアジアショップの店先で小さなイモを見つけたとき、気に入って買い求めた。
これは「クワズイモ」というらしい。見た目は里芋そっくりでとくに若い小さな小芋などは実にうまそうなのだが、文字通り「煮ても焼いても食えない芋」なんだそうな。
イモというものは実はかなり毒性の強い種族らしくて、例えばジャガイモの芽は毒だし、タロイモなどもガラス質の繊維が多くて食べるためには蒸したり叩いたり相当の手間が必要らしい。
あれこれの工夫をしたがどうしても食えなかった、というのがクワズイモなんだろう。英語では「オーナメンタルポテト(飾り芋)」というもっともらしい名前が付いているが、意味は同じで「食えない」ということだ。食べようという努力をよほどしてみたのに結局食えなかった、という「口惜しい」感じがして微笑ましい名前である。
一枚めの葉が出るまでは、けっこう時間がかかった。それまでは小さなガラス瓶で水栽培していたのだが、一枚葉が出ると急に大きくなりはじめ、いまでは大ぶりの鉢で土植えにしている。非常に元気な根で伸び先を探して鉢から出そうな勢いだ。背光性があるはずなのだが、それより伸びる力が勝っているのだろう。
環境が合っていたらしく、部屋のなかでどんどん大きくなっている。10センチたらずの小さなイモがすでに1メートル近くの葉茎を立てている。やがて天井に付くほどに成長するかもしれない。
(2001年7月4日)
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