Yangon
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ふたたびシェダゴンパゴダに行く。
チャットへの両替など不要だったといまさら気づく。


ヤンゴンを離れる日が来た。私は旅を続ける気力をすっかり取り戻していた。

その 理由の最大のものは身体の復調だが、他にも要因があるだろう。マレー半島に少し 飽きはじめていたのだがミャンマーはまったく違って新鮮だった。おおげさに言え ば「復活の日」という気分だ。

とはいえこの日「東京に帰ってみんなに挨拶する」夢を見た。もう4月5日だ。今 月末には帰国しなければならない。意識のどこかで帰り仕度が始まっている。

飛行機は夜の便なのでまだまだ時間はある。それまでの時間に少し散歩をしよう。 チャットを使い果たしてしまったのでフロントに交換レートを聞くと「1ドル= 190K(76円分) 」という。ばかばかしいのでFEC(外国人向けドル互換紙券)のまま出かける 。

パゴダへの参道にあった仏像屋 この前行ったときは夜だったSHWE DAGON PAGODAにもう一度登る。昼間だから軍の封 鎖もなく道は近い。 参道の仏具店で真鍮(しんちゅう)製の風鈴を買った。「ひとつ200K(80円)だが、FECならふた つで1ドルにする」と売り子が言う。

「なんだ、ドルで買ったほうが簡単じゃないか」

これまでの思い込みが修正される気分だ。

シェダゴンパゴダの山上で 日曜日なので参拝客は多い。仏前結婚式らしい一群や子供を駕篭に乗せて触れ回る 儀式など、この前にはなかった仏教国らしい儀式を見ていたら、頬に白い粉を塗っ たねーちゃんが恐ろしい顔をして近寄ってきた。

パゴダの山上で その女は係員らしく「このパゴダを見るには入場料5ドルが必要だ。券を見せろ」 と言う。

「じゃあ入らない」と振り切って階段を降りる。もう、さんざん見ている のにいまさらそんなこと言われてもねえ。それにしても入り口でやればいいじゃな いか。どうもシステムが悪い。

出口近くの店の集まったあたりで、地元の若者ふたりに話しかけられた。ドルをチ ャットに変えないかというのだ。レートを聞いたら「1ドル=280K(112円)」だという。

惜しい。私は今日この国を離れるのである。せめて朝一番だったらいくらか両替した かもしれないが、いまではこの国でのドルの威力を知っている。ダメだと断わる。 若者はとくにこだわることなく別の交渉相手を探しに離れていった。



c 1998 Keiichiro Fujiura


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