Narita
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酒肴にアジアの大地図を開き、
酔心に異郷への想いを沸かす。


Globe Trotter社の地図
この時点では「どこに行くか」決めていなかった。
「イスタンブールから入って鉄道でヨーロッパを横断する」という思い付きにもしばらく熱中していたのだが、そのうちに「やはりアジアだなあ」という思いが強くなった。なにが「やはりアジア」なのだろう?

たぶん、きっかけとなったのは一枚の地図だ。Globe Trotter社の「旅行者のための東南アジア全図」という大きな地図を買った。日本の地図と違って精密な書き込みはないが、そのかわり都市と都市をつなぐ街道が太い線で書いてある。エリアは台湾からオーストラリア北岸まで。西はバングラデッシュまでが1枚の中に描かれていて、まさに今度の旅の「全域」である。仕事から帰った夜この地図を見ながら酒を飲んでいると、

「行くしかないなあ」

酔うにつれて強烈な憧憬に襲われる。私は旅の目的をアジア彷徨と決めた。 2月から4月。東南アジアは乾季だ。季節としても最上である。



正直言うと、今回の旅で行ったフィリピン、マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイ、ミャンマー、ベトナム、台湾のうち、これまでに行ったことがあるのはタイ一国だけである。当初はこれに加えラオス、カンボジアも行くつもりだった。

一度も行ったことのない町を単独でさすらう。土地感もなく知人もいない。ガイドも予約もなく現地の言葉も知らない。ないものだらけ。無謀と言われてもしかたない話だ。実際なにも知らないのだから、体当たりでいくしかない。私は居直ることにした。


c 1998 Keiichiro Fujiura


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