Narita
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アジアを旅する間、3度給料日が来た。
つまりこれは、「有給放浪」である。

有給放浪 成田を出たときには10万円しか持っていなかった。

これから2〜3ヶ月も日本に戻らず旅をしようというのに10万円とは寂しいが、これきり無いんだからしょうがない。

とはいえ、あと10日もすれば給料が出る。それをあてにしながらアジアを放浪しようというわけだ。サラリーマンはよくしたもので、有給休暇というくらいだから休暇中も給料は出る。東京でカチャンと落ちるその金をアジアで使おうというのが私の目論見であった。したがってこれを「有給放浪」と呼ぶ。

しかしアジアの片隅に日本の銀行はないではないか。どうやって受け取るのだ。と疑問をお持ちの方もいるかもしれない。それはクレジットカードでなんとかやりくりするつもりであった。大都市ならクレジットカードのオフィスがあるだろう。そこでキャッシングする予定だ。怖いのは残金不足。もし現地でカードが使えなくなったら、それこそ死活問題である。

そこで家族には三ヶ月分の生活費を前渡しすることにした。これで旅行中の口座残高は手つかずになる。その代わりに手元の現金はほとんどなくなった。この10万だって借りたものである。

「なに、金がなくなったらその時点でクレジットカードで切符を買って日本に帰ってくればいい」。この旅ははじめから金の心配をしながら始まったのである。

この旅の間、3度給料が出た。アジアの片田舎を歩きながら「ああ今日は給料日だ」と考えるのは妙なものだ。


c 1998 Keiichiro Fujiura


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