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二人は嬉々として私をタクシー乗り場に連れて行く。 「私の夫は長崎に住んでいて日本人でキリンビールに勤めている」 だったらその夫に聞けばいいじゃないか。安心させようとしているのだろうが、二重に材料があってはできすぎだ。 タクシーを待つ間、シンディは電話を掛けに行く。ますますあやしい。 |
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タクシーで南西へ。小銭入れに方位磁石が付いているので方角を調べておく。帰れなくなったときになにかの手助けになるかもしれない。 |
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小奇麗な住宅地についた。分譲住宅なのだろうか、同じような家並みが並んでいる。その一つに入っていった。叔母さん夫婦とその息子が迎える。親戚の娘が来る。 アメリカの住宅のように、入口のドアから横手に行くとくつろぐためのスペースがあった。 そこに座らされる。「お腹が空いていない?なにか食べる」と、インスタントラーメンを出してくれる。お茶も出る。 |
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しかしいつまで経っても話題の「日本に行く妹」は現われない。代わりに相手を始めたのがこの家の主人である。50歳くらいだろう。 どこに泊まっているか、これからどこに行くか、世間話のようにしてこちらの値踏みをしている。適当に答えていると、おもむろに「ゲンティンハイランド」のパンフレットを出してきた。 ゲンティンハイランドはクアラルンプール近郊の避暑地で、カジノがある。昨日ホテルの部屋の観光案内でその存在を見つけたので、ちょっと興味をそそられた。たぶん、クアラルンプール観光のひとつの目玉なのだろう。 |
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「私はゲンティンハイランドのVIPルームででディーラーをやっているんだ」と叔父さんは言い出した。いかにも唐突である。それにしたって、このパンフレットはずいぶん使い回してくたびれているではないか。 「私はカジノのことならなんでも知っている。勝ち方を教えてやろう。」 |
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