タクシーはメモの場所に着いた。 というのだが、 「なんだか暗い通りですね」 |
繁華街でもなし、住宅地でもなし。暗い通りにところどころ赤い灯りがぽつんぽつんと見える。もう10時近いから店も閉まったのかもしれない。しかも通りの名だけで、それ以上の手がかりはない。運転手は「どこに行きたいんだ?」という顔をしている。その通りを一往復ほどしてもらったが、それらしい店は見つからない。
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「今日は無理かなあ」 「このへんのシーフードレストランで、なにか ヒントでも見つけることにしようか」 タクシーが目的の通りをかなり過ぎたあたりで、エビの看板が見えた。 「ま ここでいいか」 |
AMEXのシールが貼ってあってちょっと高そうな店である。間隔の離れたテーブルに、まばらに客が座っている。奥のテーブルではお金持ちの家族が子供の誕生日を祝っているらしい。そういう店だ。 |
私たちはくたびれた服をきたおじさんと、あまり金を持っていなそうな若者の二人連れである。そこへウェイトレスが来た。 「カタンカナリを食べたい」 「-------------」 ウェイトレスは黙っている。場違いな注文なのか。 「クラブが木に登って、、、」 「ココナツ?」 「そう」 「あります。」 「!!」 やったーーーーー! |
「メニューのどこ?どうやって食べるの?」 「実物を見る?」 「もちろん!」 |
とりあえず烏賊のペッパー炒め、蟹のフライライス、塩魚のフライライスを頼んで、ビンタンで乾杯する。わくわく、わくわく。 来た! ロブスターくらいの大きさで、下半身が丸い塊になっている。ハサミも丸く力強い。危険防止のためだろう、ハサミは中程から切ってあった。 「写真を撮りたいからテーブルに置いてよ」 「ダメ。逃げたら大騒ぎになる」 |
アップにしてみましょう |
それもそうだな。向こうで祝っている誕生日の子供の指でも切ったら大変だ。ヲサム君に持ってもらって写真を撮る。海のような、美しいコバルトブルーの胴体だ。 「ティピンカナリと言うのよ、カタンカナリじゃなくてね」 と、ウェイトレスが鼻をつんと高くした。 |
生きているときは真青色だったのに、火を通すと伊勢海老のような赤色になった。 頼んだ調理法は、ヤシガニを割って炒め、ネギ入りのスパイスソースをかけたもの。殻は固く、身は太っているが野生的。通常の蟹とは比較にならないほど身が多く油が乗っている。美味い。初めて食う味だ。 別の皿で「蟹味噌」が来る。ウニみたいなところもあって、すこぶる濃厚。これも美味い。 |
食べている途中で、さっきのウェイトレスが「じゃあね」と帰ってしまった。10時だ。もう閉店の時刻なのだろう。あと少し遅れていたら入れなかった。 実に幸運「思いがけず」という感じで、こうしてヤシガニを食べることができたのである。価格は164,450rp(2335円)。インドネシアとしては最高水準の金額だが、満足は大きかった。 |
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